第7回 元のいんねん

『天理教教典』第七章「かしもの・かりもの」の最後は、人間創造の「元のいんねん」について記されています。

人間には、陽気ぐらしをさせたいという親神(おやがみ)の思いが込められている。これが、人間の元のいんねんである。

『天理教教典』 70ページ

とありますから、人間にはそうした親神様(おやがみさま)の願いが掛けられています。
ところが人間は心の自由を与えられました。『天理教教典』には続けて、

しかるに、人間は、心一つは我の理と許されて生活(くら)すうちに、善き種子もまけば、悪しき種子もまいて来た。

同上

とあります。

人間は生まれ変わりを経ながら、さまざまな心の変遷(へんせん)を積み重ねてきたことには間違いがないようです。

では、創造時の人間の心とはどんなものだったのでしょうか。
きっと「さんさい心」と呼ばれるような純粋無垢なものだったのでしょう。

もくじ

心の起源

皆さんは世界史の授業で、人類がホモ・サピエンスになってから約20万年という時を刻んでいると学んだことがあると思います。
人類は限りなく進化してきたわけですが、当然、私たちの祖先は身体ばかりでなく、脳も進化させてきました。
そこでは、脳がつくり上げる心も進化したと考えられます。

今年読んだ本で一番興味深かったのは、『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』(NHKスペシャル取材班編)でした。
同取材班は「私たちの『心』の中には壮大な人類の進化が埋まっている」という発想の下、人類の心の起源を求めようとします。

同著によると、私たちの祖先であるホモ・サピエンス誕生の地として、南アフリカのケープタウンの近くにあるブロンボス洞窟が注目されているそうです。
この洞窟に住んだ人類の祖先の生活から「人類に最初に芽生えた心」を知ることができると言います。

ところで、この遺伝子に最も近い子孫がカラハリ砂漠に住むサンと言われる人々です。
サンの人たちの生活スタイルから、人間の一番根源的な生き方が分かるのでは、と仮説を立てるのですが、彼らは狩猟採集により得た食物を、全て平等に分配することを徹底しているそうです。
もし独り占めするような者がいたら、次からはその者にはみんなが与えなくなり、結果、その者は村から外れ、生きていけなくなります。
サンの社会で最も嫌われるのは、「けちと自慢」だそうです。
生き残るためには分かち合うことがとても重要だったのです。

その後、幾度もの環境変化と突然変異により、現在のような多様で高度な心と思考を持った人間が形成されたのですが、みんなで分かち合う心は人類が進化する初期の段階に形成されたものであり、過酷な環境の中で人間として生き延びることができた要因だったと取材班は述べています。

つまり、共に生きた者のみが、人間として進化できたということです。
人間の心の起源は、“共に分かち合う心”だったということができるかもしれませんね。

親の心を知る

『天理教教典』第七章は、

いかなる中も、善きに導かれる親心にもたれ、心を治めて通るならば、すべては、陽気ぐらしの元のいんねんに復元されて、限りない親神の恵(めぐみ)は身に遍(あまね)く、心は益々明るく勇んで来る。

同 72ページ

と締められています。

では「元のいんねん」とはどういうことでしょうか。
人間の心は限りない変遷を経ているのですが、それが原初のあり方、人と人がたすけ合い分かち合う心に戻るということになります。
そのためには、親神様の心に触れなければなりません。
「元のいんねんに復元される」とはそういうことだと私は思います。

ところで、私は学生時代に社会福祉学を学んだこともあり、対人援助や心理療法に関心がありました。
その中で、日本人の心情に最も合うのは内観療法ではないかと感じていました。
これは吉本伊信(よしもといしん)氏が開発したもので、静かな場所にこもって、誕生から現在までの自分の歴史を振り返り、自己を発見する方法です。
技法としては、自分が親に対して、「世話になったこと」「して返したこと」「迷惑を掛けたこと」の3点について、具体的な事実を調べます。

調べるのは年代順で小学校低学年、高学年、中学校時代……、というように、年齢を区切って現在まで調べます。
1週間ほど続けると、思いも寄らない過去の記憶がよみがえり、自分のことがよく分かってきます。

その結果、心に解放感を感じ、「情緒が安定する」「思いやりが出てくる」「責任感が強くなる」「対人関係が好転する」「意欲が向上する」などの心の変化が現れてくるといいます。

この技法は不登校や非行で悩んでいる人、アルコールや薬物の依存症で苦しむ人たち、いろんな対人関係や思春期の心の葛藤にある人から支持されています。

こうした事実を信仰者としてはどのように考えればよいのでしょうか?
私は「人間はいろんな悩みを抱えるが、それは親と自分の関わりを見詰め直すことで癒され、解放される」という人間についての真実を教えていると思います。
これが人間が救われる原理ということになるのかもしれません。
親との関わりを見詰め直すことで人は救われると言ってもよいのではないでしょうか。

申すまでもなく、私たち全ての人間の親は、元の神・実の神である親神様です。
世界中の人間が親である親神様と自分の関わりを知る日が来れば、それは人類が救われるということなのでしょう。

私はそんなことを内観療法から感じます。

つづく

※『Happist』2013年10月号より再掲載

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