小塚 嗣夫「負けて、損して、許す」

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先輩からの三つのキーワード

昨年の師走に信者さんのSさんから「会長さん、バイクで事故しまして病院に運ばれました。肋骨と肩を骨折し、入院となってしまったので元旦祭には行けません」と電話があった。

すぐに病院に駆けつけ、命には別状はないことに安堵あんどしたのも束の間、数日後のMRIの結果、脳左前頭部に悪性脳腫瘍あくせいのうしゅようが見つかった。5年の生存率が24%との診断だった。すぐに開頭手術が必要とのことで、さらに4ヶ月の入院となった。Sさんの自宅は自教会から100キロほど離れている。

三年千日の心定めとして、会社の近くにある教会に日参させていただこうと心を定めた。その教会は、私が青年会時代に大変お世話になった先輩が会長を務めており、快くSさんを受け入れてくれた。

年明けからおたすけに通うようになり、これまでお世話になったお礼と、今回の事情を説明しに初めて教会に参拝させていただいた。

久しぶりの再会に話は弾み、お互いの三年千日における、教会として、また個人としての取り組みについての話になった。

そこでの会長さんの話に、「教祖ならどうされるのだろうかと考えたとき、どんな人に対しても『負けて、損して、許す』、この三つをやり切られたのではないかと思うんだよね」との言葉があった。

私はこの一言に、衝撃を受けた。なぜなら、これまでの自分と真逆であったからだ。人に負けたくない、損するのは嫌だ、人に舐められたくない、情けない話ではあるが、これも自分の行動力と持ち味だとさえ思っていた。それからは、Sさんにおさづけを取り次ぐたびに、「負けて」「損して」「許す」が頭から離れなくなった。

尊重から始まるおたすけ

4ヶ月の間、通い先の教会の会長さんと信者さんたちが病院におたすけに来てくださり、Sさんは、「日参の心定めをしたおかげで今がある。あの時の事故のおかげで腫瘍が見つかった」と親神様のお手引きを悟り、修養科にいく心を定めた。無事手術を終え、脳細胞の遺伝子検査の結果が届いた。

お医者さんからは「Sさんラッキーでしたよ、最悪の結果は免れました。5年の生存率が85%です。この細胞を研究機関で使わせてください! 」との診断だった。

私とSさんは、すぐに通い先の教会に直行し、親神様、教祖にお礼を申しあげ、会長さんに報告させていただいた。

このおたすけを通して、私は人に寄り添い、たすかりを願うときに、「負けて」「損して」「許す」が頭をめぐり、教祖のお姿が浮び、これをご存命というのだろうと思った。

教祖は常に上からの態度や、一方的な態度ではなく、相手の気持ちを尊重することで萎縮させない接し方をなされた。それは、どこまでも一貫して相手を育てようとするものであったのではないだろうか。

そして、私自身が、これまでどれだけの人に寄り添っていただき、お育ていただいたかを実感する体験となった。私たちも相手の気持ちを尊重してこれからも日々を通らせていただこう。

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