安部明徳「命(いのち)」

もくじ

どっちが先か……

昨年、私の父が出直しました。
父は数年前から悪性リンパ腫という病気で、入退院を繰り返していました。痛みはあったのでしょうが、それでも弱みを見せない頑固な父は、自分の事は自分でこなし、それまでとあまり変わらない生活を送っていました。

私たち夫婦は結婚して数年、なかなか子宝に恵まれませんでした。3年がたって、やっと妻のお腹に新しい命が授かり、その年の末に出産の予定をしていました。

順調に妻のお腹の中で赤ちゃんが育っていた9月頃、突然父の病状が悪化し「余命3ヵ月、年を越せるかどうか分からない」と連絡がありました。

幼い頃から反抗ばかりして、親孝行らしいことはできていなかった私にとって、やっと両親に孫の顔を見せられると思って喜んでいた矢先、父の出直しが先か、我が子が生まれてくるのが先かという状況になってしまったのです。

10ヵ月間のご守護

私には父の出直しを先延ばすことも、妻の出産を早めることもできません。しかし、そんな時に自分の身近には神様の存在がありました。自分の力ではどうしようもない場面に際した時、親神様に祈り、助かりを願うことを教えられていたのです

私はすぐさまおぢばに足を運び、「親神様教祖、父との別れは覚悟していますが、たとえ少しの間だけでいいので生まれてくる子供と同じ時間を過ごさせてください。抱っこして一緒に写った思い出の写真を残してあげたいんです。せめてあと少しだけでもいいので父に長生きを」と、真剣におつとめをつとめました。

また、父にはおさづけを取り次ぎ、そのたびにいろんな感情や涙があふれてきました。私だけでなく、家族や周りの人もお願いづとめやおさづけをしてくださり、その真心がとても温かく、心強く感じました。

結果、父の病状は奇跡的に回復したのです。そして無事に娘が生まれ、10ヵ月の間同じ時間を過ごし、写真をいっぱい残して父は息を引き取りました。最後に尊い時間を与えてくださった親神様には感謝の気持ちでいっぱいで、お道を信仰していて本当に良かったと思いました

父は、生まれてきた娘に「明るく、澄んだ水のように美しい心の人になってほしい」という願いを込めて「明美」と名付けてくれました。父から託された願いとともに、これからも大切に育てていきたいと心から思います。

この記事をみんなにシェア!
もくじ