皆さんは親孝行と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょう。
よくテレビなどで見聞きするのは、お金をたくさん稼いで、親に家を買ってあげたいとか、楽な暮らしをさせてあげたいとか。
それも確かに一つの親孝行になるでしょう。
しかし、誰でもそれができる、というわけではない。
私たちのおやさまのご逸話に次のようなお言葉があります。
「親に孝行は、銭金要らん。とかく、按摩で堪能させ。」
『稿本天理教教祖伝逸話篇』 157 ええ手やなあ
と、歌うように仰せられた、という。
ちょっとしたときに、肩をもんでくれる、その優しさが親には一番ありがたいのだと思います。
私が若いころ読んで非常に印象深い詩の一つに、不治の病に侵されて、身体を動かすことができなくなった人が、「もう一度だけ神様が私の身体を動かしてくださるとしたら、親の按摩(あんま)をしてあげたい」という一節がありました。
もんでもらったら、気持ちいい。
それも確かにそうですが、それ以上に、子どもの優しい気持ち、こんな優しい気持ちを持つようになってくれた。
その心の成長が、親にとっては何よりもうれしいのだと思います。
按摩のコツ
皆さんの中にも、よく親の按摩をする、という人もいるでしょう。
あまりしたことがない、あるいは全くしたことがないという人もいるかも知れません。
また、したくてもやり方がよく分からない、という人もいるでしょう。
以前、私の友人に、マッサージを職業としている人がいました。
その人が言うのには、同じようにマッサージをしていても、神様に「良くなりますように」と祈りながらするのと、ただ仕事だからしている、というのとでは、その治療効果に大きな違いがあるというのです。
どこをどうもんだらいいのかよく分からない、というときには、まず自分の肩から腕、指先の力を抜き、相手の肩や背中に手を当てて、「なむてんりわうのみこと」と唱えてみてはいかがでしょうか。
おやさまのご逸話に、紙をとじるのに糸を通す時、「なむてんりわうのみこと」と唱えながらお通しになった、という話がありますが、「なむてんりわうのみこと」と唱えてみると、相手の身体の状態が見えてくるというか、どこをどうもんだらいいのかが見えてくるような気がすることがあります。
また、相手の身になるということも大切ですね。
相手の身体の状態におかまいなく、ただ力任せにぎゅうぎゅう押したりもんだりする、というのではいけません。
相手の身になって、できれば相手の呼吸に合わせるような気持ちでする、ということが大切ですね。
そうして按摩をしていると、相手の身体の感じが自分の身体の中に移ってくる、とプロの方も言います。
相手のもんでもらいたいツボにしっかり当たって、相手が気持ちいいなと感じている時は、その感じが自分の身体にも伝わってきて、自分の身体も気持ちよくなってくるものです。
こうしてみると、按摩には、親孝行である、ということのほかにも、
一、「なむてんりわうのみこと」と神様に祈り、もたれきる。
二、相手の身になる
三、人たすけたらわが身たすかる
という、お道の教えの要が、すべて詰まっていると言ってもいいのではないでしょうか。
本当の親孝行とは
こうして、按摩をして親孝行をしてくれる子どもの姿を見て、当の親御さんばかりでなく、親神様(おやがみさま)も、ご存命のおやさまも、これだけ親のことを、人のことを思いやれる、優しい人間に成人してくれたかと、お喜びくださいます。
みかぐらうたに
むごいこゝろをうちわすれ
五下り目 六ツ
やさしきこゝろになりてこい
というお歌がありますが、この優しい心こそ、親神様のお望みくださる、陽気ぐらしの一番大切な根本ですね。
思うに、本当の親孝行とは、親神様、おやさまにお喜びいただけるような人間になることではないでしょうか。
「ここが本当の親里やで」というおやさまのお言葉もあるように、親神様、おやさまこそ、この世人間をお生みくだされた、私たちすべての人間の真実の親なのです。
元初まりの時の、その真実の親子の関係が、私たち人間同士の親子の関係の中に生きている、映されているのです。
だから、本当の、究極の親孝行とは、親神様、おやさまにお喜びいただくことである。
それが結局は実の親にも喜んでもらえることにつながる。
また逆に、実の親に喜んでもらうことが、親神様、おやさまに喜んでもらうことにもなるのです。
私もそうだったように、若い皆さんは、時には親に対していろいろ思うこともあるかもしれません。
しかし、おさしづに
この世に親という理はめん/\の二人より外にある理はあろうまい。その親を離れて何処で我が身が育とうか。親という理が外にもう一人あろうまいがな。
明治21年8月9日
というお言葉もあるように、自分がここまで育ってきたという事実は、銘々の親を離れてはあり得なかったのです。
そのご恩を、決して忘れることなく、按摩をはじめとして、自分にできる精いっぱいの親孝行をさせていただきましょう。
それがあなた自身の人生の底力にもなるのです。
つづく
※『Happist』2012年5月号掲載