渡部芳文「髪の道から神の道へ 」

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髪の道から神の道へ

あれは私が中学生の頃、ある先輩が私の頭部をあざ笑うかのように触りながら「お前、髪薄いなあ」と、つぶやかれた。

思いもしない言葉に思春期であった私は、早速家に帰り、合わせ鏡をして頭のてっぺんを見てみた。すると「確かに薄い」と愕然(がくぜん)としたのだった。それからというもの、シャンプーをするたびに、手のひらに抜けた髪を見ては落ち込んだ。

当時、週刊少年雑誌に『ハゲしいな!桜井くん』という漫画が連載されていて、主人公が私に思えてならなかった。人に後ろから頭部を見られないように、また、光が頭に当たらないように細心の注意を払った。

時には親の毛染めを頭皮に塗り込み、隠したこともあった。あの日の一言の言葉から、寝ても覚めても「髪、髪、髪、髪」に明け暮れる自信のない青春時代を送った。

大学進学も失敗し、思うようにならない人生に悩んだ。眠れない日が続き、この世から消えたいと思うようにもなった。そんな時、私を育ててくれた祖父母が出直した。何も恩返しができず、居なくなってしまった敬愛する祖父母に申し訳なくて仕方なかった。

しかし、その出直しが私に力を与えてくれた。夫婦そろっての出直しの姿にこの道、天理教の素晴らしさを感じた。そして両親から天理教校専修科への声を掛けてもらい、今できる恩返しはこれしかないと入学を決意した。

しかし、当時の専修科には「頭を丸刈りにする」という入学条件があった。「髪」に振り回されてきた私にとって、生きるか死ぬかのような決断だった。ましてや、これまでに丸刈りにしたことは一度もない。「清水の舞台から飛び降りる」とは、こういうことだろう。そして私は「髪の道」から「神の道」へ生きることになったのである。

あれから、もう20年以上たつが、その後一度も髪を気にしたことはない。それは人類の故郷ぢば、親神様(おやがみさま)、教祖(おやさま)という大きな親の懐で、間違いのない「をや」の言葉を聞けたからだと思う。

ふし」から芽が吹くごとく、青春時代のあの苦い経験が今に生きている。今ではたくさんの方々から 人には言えないコンプレックスや悩みを聴く場面がある。本人が思うほど周りは気にしていないかもしれないが、その人にとっては、その一つのものが、死にたいくらい辛いということを私は知っている。

神様が人間だけに与えられた言葉の力は大きい。言葉一つで、人を幸にも不幸にもできる。 「一言の『にをいがけ』は人の運命を変える。それは『をや』の声を聞く時、心の向きが変わるからである」と聞かせていただく。

教祖は、いつでも悩み苦しんでいる人々に、寄り来る人々に温かい言葉を掛けられた。その深い大きな親心に、皆感激し「教祖、教祖」とお慕いして、どういう中も乗り越え、生きる力を頂いてきた。

これからも教祖のように、温かい言葉、励ます言葉、寄り添う言葉を掛けられるよう努力していきたい。

みんなが陽気ぐらしになれるように。

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