「天理教の社会福祉活動について、お話をしてもらえませんか」
当時、私が勤めていた布教部社会福祉課に、ある関東の公立大学から依頼がありました。
この大学は、将来、社会福祉や看護など、ヒューマンサービスに従事する学生を養成する目的で開設された学校です。
「福祉の仕事に従事する人は、人間を超えた存在を知らなければならない」
という信念のもと、1年生を対象に「宗教と人間」という科目を開講しています。
この科目では、実際に仏教者やキリスト教者が講師となり、学生にその信仰を伝えるという形式を採っていました。
ところが、受講生の中から「日本には他にもいろんな宗教、教団があるのでは?」という声があり、冒頭の話になったのです。
大学からは「天理教は社会福祉に熱心に取り組んでおられるので、ぜひその話を」とのことでしたが、私は「これは大変名誉なこと」と勤めさせていただきました。
天理教の社会福祉活動
〈Happist〉読者の皆さんは、天理教の社会福祉活動について知っておられるでしょうか?
社会福祉課が所管している取り組みだけで次の通りです。
点字文庫、点字研究室、音訳研究室、手話研究室、社会福祉施設連盟、教誨師(きょうかいし)連盟、保護司(ほごし)連盟、民生・児童委員連盟、里親連盟、社会福祉研究会、献血推進委員会、保育士育成委員会、ハンセン病療養所協議会、視力障害者布教連盟、聴力障害者布教連盟、肢体障害者布教連盟、キッズネット天理、酒害相談室、ひのきしんスクール運営委員会、啓発委員会(事務局)と全部で20の活動を行っています。
天理教の社会福祉活動は、明治43年に開設された天理養徳院(てんりようとくいん)が始まりで、養徳院とは、今でいう児童養護施設です。
院では、事情があって親と暮らせない子どもたちを預かり、保育士が共に寝泊まりをして子どもたちを育てています。
養徳院は中山眞之亮(なかやましんのすけ)・初代真柱様が開設なさいましたが、初代真柱様は職員に対して、「人の子も我子(わがこ)もおなしこゝろもて おふしたてゝよこのみちの人」と詠(うた)われました。
人の子も、わが子と同じ愛情をもって育て上げてくださいと願われたのです。このお歌がお道の福祉活動の信条となりました。
これ以降、布教師により各地に農繁期季節託児所が開設され、田植えや稲刈りなど農家が忙しいときに、教会が一時的に子どもたちを預かるようになりました。
これは地域社会から大変喜ばれ、天理教に対する社会の偏見や誤解が払拭されることになりました。
また戦前、教祖50年祭に際しては、東京や大阪という大都市の母子家庭を中心とした貧困家庭に、牛乳を配給するという取り組みもありました。
これには、貧困故に子どもを育てられず、心中する親子が後を絶たなかったという社会背景もありました。
皆さんは、教祖の元に物乞いに来た母子の話を知っているでしょうか?
お母さんは乳飲み子(ちのみご)を抱いていました。
哀れに思召(おぼしめ)された教祖は、おかゆをお与えになり、赤ちゃんを抱いて、自ら乳房を含ませられました。
当時の本部の先生方は、こうした教祖の「ひながた」に倣(なら)うという意味で、牛乳を配給しようと決断されたのです。
その取り組みは、日本の社会福祉史の中でも特筆すべき事として記されています。
また、戦後には多くの戦災孤児が街にあふれましたが、この時も「一教会が一人の戦災孤児を預かりましょう」という本部の打ち出しがありました。
その後も各地に福祉施設の開設が進められていきました。
現在、多くの教会が里親に取り組んでおられ、里子の1割以上は、天理教の信仰者がお世話をしているといわれています。
養徳院の開設から100年の歴史を数えることとなりました。
振り返れば、先人は前述の初代真柱様のお歌の通りに社会福祉活動に取り組まれました。
そして、それらは社会に教えを伝える大きな役割を果たすことになりました。
大学では、こうした社会福祉活動に対する思いと歩みをお話しさせていただきました。
世界中の人々が信仰すれば
ところで、学生からは次のような感想を頂きました。
受講生のほとんどは、私の講義を通して初めて天理教に触れたという人ばかりでした。
「もし世界中の人々が天理教を信じたとしたら、戦争、差別、貧富などなく、みんなが幸せになれるだろうと思いました。互いに立て合い、たすけ合うことは生きていく上で大切なことだと感じました」
「今回の講義で初めて天理教を知りました。天理教は社会福祉活動が盛んなことを知り、驚きました。人間はきょうだいであるという教えは、まさにその通りだと思いました」
「天理教の社会福祉活動に感動しました。信仰は人にとって必要なものだと思います。私たちの生活は、信仰によって大きく変われると信じています」
天理教の「陽気ぐらし」「一れつきょうだい」「かしもの・かりもの」「互い立て合い たすけ合い」という教えの実践そのままに、また初代真柱様のお歌に導かれて数多くの社会福祉活動に取り組む信仰者の姿に、受講生は感銘深く講義を聞いてくれたということです。
『天理教教典』第十章「陽気ぐらし」では、
たすけの道にいそしむ日々(にちにち)は、晴れやかな喜びに包まれ、湧き上がる楽しさに満たされる。それは、常に、温かい親神の懐に抱かれ、人をたすけて我が身たすかる安らぎの中に身を置くからである。これが、陽気ぐらしの境地である。
『天理教教典』92ページ
と教えられます。
天理教の社会福祉活動は、ともすれば現代社会にまん延する閉塞感、無力感を打ち破り、世の中に希望の光を指し示すものだと私は信じています。
つづく
※『Happist』2014年2月号より再掲載